家族支援 |
● | 統合保育の経験から生まれた家族支援の考え方 淡路こども園は、大阪市から委託を受けて、社会福祉法人水仙福祉会が運営している知的障がい児の通園施設で、大阪市北部の東淀川区にあります。1978(昭和53)年の開所以来二十数年、民間法人の独自性を生かして、母子療育、家族支援、学童障がい児のアフターケア、専門家による外来相談、きょうだいを対象にした活動など、本人と家族に必要と思われる援助やサービスをつくり出し実践してきました。 運営の基本方針は、同法人の風の子保育園における統合保育の経験から生まれたものです。風の子保育園は、1971(昭和46)年に大阪市から実験的開拓事業の委託を受け、障がいのある子どもたちを受け入れました。その一人ひとりに合った保育を追求するなかで、子どもたちは驚くほどの成長を見せましたが、同時に保育所の援助に限界があることがわかってきました。保育所では家庭で抱えている悩みや困難に対して十分な相談や援助ができません。とりわけ自閉性障がいや知的障がいの重い子どもの場合は、こだわりやわかりにくい行動がよく出てきますが、家庭の様子が把握できないため、その行動がどのような状況と関連して生じるかを理解することは困難でした。また、保育者への愛着や人に対する関心が育ってきた子どもたちのなかには、就学してから状況が悪化し、親が対処できず入所施設や精神病院に入る子どもも出てきました。 こうしたことから、地域で子どもの成長を一貫して支えていくためには、子どもの保育だけでは不十分で、親が子どもを理解し支えられるようになるための援助や学齢期のアフターケアが必要不可欠との認識に至ったのです。 以来、当法人は、淡路こども園の実践を基盤にして、1986(昭和61)年に知的障がい者通所更生施設、「風の子そだち園」、次いで障がい者福祉作業センター3ヵ所、グループホーム4ヵ所、1999(平成11)年には地域生活支援センター「風の輪」を開設、幼児期から学齢期、青年、成人期を通して、障がいのある人とその家族を一貫して支援することになりました。 |
● | 親子通園におけるよりよい親子関係の構築 淡路こども園では、親子通園の日には、障がいのあるこどもだけでなく、母親やきょうだいも一緒に通ってきます。職員は、母親が子どもと一緒に遊んだり食事をするなど園での生活を共にするなかで、わが子の表情や行動から何を感じているのか、何を求め、何に困っているかなどを理解し、気持の通じ合える関係を築いていけるように援助しています。 例えば、A君は、急に頭を激しく床にぶつけ始めました。その様子に驚いた母親には、何の理由もなく突然起こったように見えます。また、B君は必死に1つの物にこだわって、呼びかけても振り向きもしません。そのため、母親はどう対応したらよいかわかりません。 しかし、職員が周りの人との関係と照らし合わせて見ていると、A君が頭打ちを始めたのは、弟の世話に手を取られた母親に気持ちを伝えられず困っているからだと推測されます。また、B君のいらだちの背景には、持っていたおもちゃを取られて、相手の子どもに嫌と意志表示したり、傍らの母親に援助を求めたりできないという戸惑いがあったと思われます。 親はそれらの関係に気づかないために、子どもの行動の意味が理解できず、子ども自身のもつ固有の障がいと見てしまいます。しかし、関係性を念頭に置き、職員が弟を見て母親がA君にかかわれるよう配慮すると、A君は頭打ちをやめ母親にだっこを求めて落ち着きました。また、B君はおもちゃを取られた悔しさを母親が共感し慰めると泣き出しました。このように、A君の自傷行為やB君のこだわりは、自分の要求や気持ちを大人にうまく伝えられないことから生じていたことが確認され、親も「この子はこんなふうに思っていたのか」という確かな手応えを得るのです。 こうした理解やかかわりを積み重ねることを通して、最初は人を避けたり、母親への後追いや愛着を示さなかった子どもたちも、母親の姿勢や態度の変化を敏感に感じ取り、一緒にいてほしい気持ちや意志を率直に表すようになります。嫌なときや不安なときに一人で耐えていると、周りから理解できない行動になるが、本人の行動を周りの人との関係で理解して対応すると、子どもは「理解してもらえる」という実感を得ることができるため、表情、しぐさ、言葉などではっきりと伝えられるようになります。すると周りの人に気持ちを理解してもらいやすくなるため、情緒的に安定し、友達への興味や対人関係が自然に広がっていきます。 このような関係を築くには時間と労力を要しますが、母親にとっては、わが子と気持ちが通じ合えることは何にも替えがたい喜びです。こうして手応えを得ることにより、育児の負担感は確実に軽減していきます。 |
● | 母親、家族の悩みや困難を知る よい親子関係を築くための援助と並んで、母親や家族の悩みを聞き、家族関係を調整したり、母親がすっきりした気持ちで育児ができるような援助も大切です。 母親の悩みは想像以上に大きいものです。例えば、障がいが判明した時の戸惑いとショック、自責の念、「何とかして障がいを改善しなければ」との焦り。障がいのある子ども中心の生活から生じるさまざまな無理、バランスよくきょうだいを育てる難しさ、きょうだいに強いる過度の我慢。父親に協力してもらえない不満、祖父母との葛藤、近所の人の理解が得られない辛さなど、どれも深刻です。これらの悩みは混然一体となり、母親の大きな負担となっており、子どもにも大きな影響を与えています。 母親は必要なときいつでも相談できる場所を求めています。園では、個別相談やカウンセリングを通して、こうした母親の悩みに耳を傾け、気持ちを整理する援助をしています。また、共通の悩みを抱えた母親同士、卒園した幼児、学齢期、成人の母親同士など当事者が交流する場をつくっています。他の母親の話を聞いて、「悩んでいるのは自分だけではない」と元気が出たり、先輩の経験談から育児の仕方を見直したりと、母親には好評です。 その他、母親1人に集中しがちな育児の負担を軽減し、父母が協力して子どもを支えていける基盤をつくるために、父親の話も聞き、父母間、場合により父母との関係調整を行なっています。 |
きょうだいは家族の一員として、本人の発達に非常に大きな影響を持ちます。弟や妹がいる場合は、大人が世話に手を取られるため、本人が大人に向けて要求や甘えを出しにくくなりがちです。また、兄や姉の場合は、大人の目が障がいや遅れのある子どもに向きやすいことに加え、人一倍早くしっかりすることを期待されるため、我慢をすることが多くなりがちです。 障がいのある本人だけでなく、きょうだいも家族の一員として大切にされ、自信をもって成長できるよう、保護者と共に考えます。 |
● | 年下のきょうだいに対して ボランテイアの協力を得ながら弟妹も一緒に保育し、お母さん方がきょうだいも含めて良い関係でみていけるように援助します。 |
● | 年上のきょうだいについて きょうだいが主体となって参加できる活動を企画し、互いに仲良くなったり、抱える悩みを共に話し合ったりする機会を作ります。 |
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