エピソード

「『嫌だ』と言いにくい気持ちがわかった」

<背景>
 Dさん、男性。誘われたりした時に本当は「嫌だ」と思っていても嫌と言えずに、誘われたままに行動してしまったり、はっきり返事ができないことが多い。そのため、我慢しながらこちらに合わせて行動してしまい、物の位置を気にしたり、ゴミ箱の中に入った袋を空にしようとする行動がある。
 誘いかける時に本人が答えやすいようにと気をつけながら誘いかけをしていたがはっきり答えないことが多く、行動をしてみて確かめようと思いながら誘いかけるようにしていた。私は本人の意思に任せるつもりではいたが、どこかで一緒に楽しめたら、一緒に出かけられたらと思いながら誘いかけているところがある。
 本人が嫌と言いにくい気持ちになかなか気付けていなかったので、本人は以前にこだわることが多かった椅子を重ねてエレベーターの前に置いたりする行動が見られるようになった。

<エピソード>
 外出に誘いかけるとすっと動いて外に出た。動いたものの本人が本当はどうしたいのか、行こうと誘われると断りにくいかということを尋ねるが返事はなく先に進んでいこうとした。
 私は本人に合わせて誘いかけながらも「一緒に出かけられたらいいな、楽しく外出したいな」という思いを持っていた。はっきりした反応もなく本人は本当に外出したいのか、言いにくいのか、わかりにくいのでついていくようにしてみた。徐々にゴミを気にする回数が増え、はじめは足で蹴っていただけだったが、ゴミを拾ったり、看板の位置を気にし始める。本人にどこに行こうかと尋ねるが反応無く、徐々に歩くペースがゆっくりになる。行きたくないのかと声をかけても反応はなく、再び歩き出す。何度かこのやり取りを繰り返していて、本人がゴミや物の位置を気にするのは、行きたくないけどそれを言えず、言えないということにこちらが気づいていないからかと思った。「行きたくないって言いにくかった?全然気づいてなかったら言いにくいよね、嫌やったら園に戻っていいんやで。」と声をかけると、立ち止りどうしようという感じの表情になったので、もう一度「園に戻ろう」と声をかけた。そうすると、体を向きなおして園の方向に歩きだした。
 「なかなか気付けてなかった。これからは、嫌って気持ちとそれを言いにくいって気持ちに気づけるようにしたい」と話した。本人の気持ちに気づいたからか帰りはそれまで気にしていたゴミや看板、公園のゴミ箱などは一切気にせず園に帰った。

<考察>
 本人は嫌と思っていても返事をしなかったり、反応が無いと思ってみてしまっていたが、こだわり行動や返事をしないということも本人なりの表現方法であり、本人の今できる精いっぱいの表現をこちらが気づけるかどうかで言いやすさや、表現のしやすさが変わってくる。
 また、私の一緒に楽しめたらと思いが強く、言葉では表さなくても本人は感じとり、何か無理にさせられるのではないかと感じて言いにくくなっていることも考えられる。
 こちらが本人のそういう思いを理解して、本人のペースで表現してもらえるよう見守りつつ本人が気持ちを伝えやすくなるように、こちらが本人の言いにくさを感じたり、表現に気づけるよう気をつけていくことが大切だと感じた。
執筆・2013年1月

戻る
エピソードページに戻る  トップページに戻る
設置・運営主体
社会福祉法人 水仙福祉会