● | 視点(13)
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「はじめて子どもから手をつないでくれた。そのときの喜びは今でも忘れない」と話されるお母さんがおられます。今回は、「多動でいつ飛び出すか分からない」「勝手に友だちのおもちゃを取る、押し倒す」など、日々苦労されているお母さん方へのメッセージです。 こんな場合は、子どもから目を離せず、手首や腕を握っておかざるをえなくなり、お母さん方は神経をすり減らします。わが子を押さえつけることは本意ではありません。むしろ子どもの身の安全や相手を気遣うだけに、そうした苦境に立たされていると言えます。 しかし、子どもは、まだ大人の思いを聞き分ける力を備えていないので、大切な存在であるお母さんが自分の行動を必死で止める意味は理解できません。その手を振り払い、すり抜けてでも目的を実現しようとします。そのため大人はますます気を抜けなくなり、親子は何かを一緒に楽しむのでなく、行動を監視する・される関係に陥ってしまいます。こうした力のせめぎあいは、最終的には子どもが大人に屈服せざるをえない結果になり、双方に後味の悪い感情をもたらします。それは人への不信感を作り出す場合さえあります。 このような難しい事態にどう対処すれば良いでしょうか。 最初子どもは自分の興味や欲求から一心に物に向かいます。「止められる」と思えば、それに反発して「止められまい」と行動します。ですから、子どもから見て、納得しやすい・受け入れやすい働きかけの仕方を考える、言い換えれば、大人のことを「自分の気持ちをよく理解してくれる」「願いの実現に協力してくれる」存在と思えるような経験が必要となります。子どもから見て「大人と一緒にいると心地よい、思いを伝えたい」という関係をどう築くかが要です。 具体的には・・・まず、力任せに手を握る、手首をつかむことは控えます。例えば、「お母さんも一緒に行くよ。手をつなごうね」と肯定的な言葉を添えながら手を差し出します。それは行動を阻止する手ではなく、協力する優しい手です。最初は「止められる」と誤解して手を振り払いますが、根気強く思いに添うようにします。他の場面でも、本人のすることに手を貸すようにします。「邪魔されない」「手伝ってくれる」と分かれば、必ず受け入れてくれます。そして「ちゃんと思いが伝わる」という実感が得られると、「思いを伝えたい気持ち」がはぐくまれ、子どもの方から手をつないでくれるようになります。 叱られたり止められたりすることを好む子どもはひとりもいません。「大人と一緒」が心地よいことを知ると、ひとり勝手に飛び出すことはなくなり、行動が落ち着いて、大好きな大人とのやりとりを通して言葉や物の扱い方を学ぶ時代に入ってきます。 |