視点

視点(26)
「あなたのために」が引き起こす「すれ違い」

 日常の子育て、保育、療育、支援においては、子どもに様々な働きかけがなされます。本人がそれらを「良し!」と受け止めるのであれば勿論OK。しかし、「何とかしてあげなくては」という大人の思いが強すぎると、子どもの心が見えなくなるので注意が必要です。

 具体例を挙げてみましょう。ある小学校での話です。大柄で重い知的障がいのあるA さんは一人で走ることができないので、運動会の徒競争のとき、先生が左右に一人ずつ付きAさんの手を持ち、3 人目の先生が背中を押して、何十メートルかを何とか走りきりました。ゴールインしたとき、周りの観客や先生方は一斉にA さんに大きな拍手を送りました。「障がいが重くてもやればできるんだ!」と感激の涙を流している人もいました。しかし、Aさんの動きを追っていた私は、複雑な思いにとらわれました。なぜなら、A さん自身は決して楽しそうでなく、走っている間イライラして自分の腕を強く噛んだり、ゴールイン後も大声をあげてピョンピョン跳ねていたからです。遠目からはその表情は見えません。

 もう一例。B さんはパズルボックスという箱を目の前にして、○や△の穴に同じ形のブロックを入れる課題をしています。職員が差し出すブロックは受け取りましたが、じっと動きません。何度か手を取って誘導されて、ようやく一つ入れることができました。そうすると、員は「できたね!」「やったね!」と一生懸命褒めます。ところが、B さんは、表情は硬いままです。目はよそを向いており、褒められたからといって少しも嬉しそうではありません。何度か繰り返すうちに、声をかけられると苦笑いのような表情が見られるようになりましたが、後でいらいらして自分の指を噛んだりします。その職員はピンとこないようで、B さんの様子を気に止めている様子は見受けられませんでした。

 この2 例のように、「すれ違い」は大人が子どもに対して一定の頑張りや成果を求める場合に起こりやすいと思われます。背景には「何とか参加させてあげたい」「自分の力でできることが大切」という大人の願いや価値観があります。しかし、その思いが強すぎると、子どもの立場に立ってその意思を尊重したり気持ちを受け止めることが難しくなります。そして「すれ違い」が続くと、子どもは(大人の期待に反して)次第に警戒心・不信感を強め、人からの働きかけを受け入れようとしなくなってしまいます。

 ですから、私たちは子どもが物事に興味・関心を持てるような工夫や配慮と共に、取り組んでいるときの表情や態度に気を配り、納得・満足・理解の度合いを見極め、前向きな気持ちを育む支援ができるようになりたいと思います。

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