● | 視点(46)
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まだ周りの人とのかかわりが少なく一人で行動することが多いお子さんの場合、自分の「欲しい物」「してほしいこと」を身近に人に伝えるようになるには、どんな経験が必要でしょうか? 今回は、自発的な要求表現をはぐくむ支援・配慮についてお話します。 このテーマに関しては、乳児期に赤ちゃんが養育者(主に母親)とどんな交流をして人間関係を築き、要求を伝えるようになるかが参考になります。 最初、赤ちゃんは人に向けた要求表現はできません。空腹、おむつが濡れる、寂しいなど「不快な状態に置かれる」と「泣く」だけです。しかし、養育者は、①泣き声を聞くと、「お腹がすいたのかな、おしっこかな?」と思いを巡らします。そして、②母乳・ミルクを与える、おむつを交換する、抱っこするなど対応します ③結果、赤ちゃんが泣き止めば、理由が分かりほっとします。・・・同じ過程を子どもの側から見ると、〔泣く=負の状態(不快・不満・不安)を表出する〕→〔大人に気づいて対応してもらう〕→〔泣き止む=正の状態(快・安心・満足)を回復する〕という経験をしていることが分かります。こうしたやりとりを重ねる中で、赤ちゃんは適切に応答してくれる養育者を『大事な人』と認識するようになり(愛着・人見知り・後追いetc)、その人の対応を期待し、表情・視線・声・手を引く・指さし・言葉等で、自分の要求を伝えるようになってきます。「理解してもらえて良かった!」「伝わった!」と実感するからこそ、自発的な要求表現が育まれます。 要求表現を培うもう一つの契機は、楽しい活動を大人と共有することです。興味・好きなことに気持ち良く添ってもらうと子どもは喜びます。大人も「してあげたい」という自然な気持ちで接します。互いに「楽しいね!」と思えるやりとりを通してこそ、子どもの心に「もっとしてほしい」「一緒にしたい」という願い・意欲が生まれます。 ここで要求表現が育つ筋道と必要な配慮を整理してみましょう。 支援が必要な子どもは、表出の仕方が弱かったり(泣き方が弱い、表情が乏しいetc)、興味が狭かったりする場合が多いので、そのぶん支援者・家族など直接かかわる人には、その表情・行動の微妙な変化に気づく観察力・感受性と丁寧な対応が求められます。
自発的な要求表現は、繰り返しの訓練で他動的に身につけさせるものではありません。以上のように、応答的なやりとりから得られる子ども自身の安心感や喜びが基盤となって育ちます。そのことを私たちはしっかり心に留め、じっくり時間をかけて気持ちの通じ合う人間関係を築いていきたいと思います。 |