視点

視点(47)
場面に関係のない言葉をしゃべる子

 発達相談には言葉に関する心配が多く寄せられます。今回は、「場面に関係ない言葉、TVや絵本のセリフばかりしゃべる」と言われる子の理解と支援について考えます。

 K君(4歳)は幼稚園に通園中、お母さんは「集団になじめない、多動、興味の偏り」に加え、「なぜこんなしゃべり方をするのだろう」と先のような心配を抱えていました。

 お母さんから、K君の生育歴・相談歴・家での様子を聞き取るなかで、次のことが分かってきました。まず、K君は物への興味が強く、運動面は活発で1歳前に歩き出したこと。しかし、甘え・人見知りなどに反映される愛着関係が弱く、身近な大人と情緒的交流や物を介したやりとりを充分経験しないまま、一人で行動する範囲が急に広がったようでした。そのため、「危険を認識しない」「人に迷惑をかける」など注意・叱責・制止を受けることが増えました。K君にすれば、大人と楽しい経験を共有できない中、興味のあるTVのアニメや絵本からの情報を取り入れることが中心になり、結果として、周りから理解されにくい自分流の表現を身に着けたと推測されました。

 最初のうちK君は大人の対応に敏感で、「これは何?」「○○しよう!」など『させられる気配』を感じ取ると即座に撥ねつけていました。

 そこで、母親も支援者も、外から行動修正を迫るのでなく、K君の興味・願い・気がかり等に気を配り、本人の立場に立って興味・経験を共有するように努めました。例えば、K君の好きなTVや絵本の場面・セリフ・キャラクターに関心を向け、視線や行動から心を推し量りながら、「○○やねぇ」「□□は~みたいね」と、K君が「そう、そう」と思えるような対応を心がけました。渋ったり嫌がったりするときは、「イヤなの?」と意思を確認し、「こめん、ごめん」と謝り「じゃぁ、どうする?」と本人の意向を聞くようにしました。また、自分の思うようにならず「助けて!」「△△!(キャラクター名)」と必死になる時は、手助けしつつ「悔しいね」「困ったね」と根気強く慰めました。

  そうした対応を積み重ねるうちに、K君の行動と言葉の表現に変化が表れてきました。母親の顔を見る→声かけを期待する→声かけを喜ぶ→大人の言葉を自発的にまねる→「お母さん」「○○して」など呼びかけや要求語が増える→「できた!」「見て!」と自分を見てほしがる、「イヤ」「こわい」と意思・感情を表現するなど、本人からの訴えが明確になり、やりとりの頻度が増えました。以前の不自然な表現やセリフはほとんど聞かれなくなりました。

 この事例は、K君が場面と関係のない(ように見える)言葉をしゃべるようになったのには背景があること、言葉は指導・訓練によって「正しい表現を身に着けさせる」ものではなく、本人にとって心地よい人の環境のなかでこそ「育まれる」ことを教えてくれます。本人の立場に立った細やかな配慮と心に届くやりとりが求められます。

 K君が青年になった時、お母さんはK君の幼児期を振り返り、「場面に合わない言葉は自閉症の特性で一生変わらないと思っていましたが、やりとりの質が変わることで言葉は育つのですね」と感慨深く話されました。私たちは子どもたちの目先の行動や表現に囚われず、その背景にある心に目を向け、気持ちが響きあう人間関係を築く努力をしていきたいと思います。

視点ページに戻る

トップページに戻る
運営主体
社会福祉法人 水仙福祉会