視点

視点(48)
押す・叩く・噛みつく子への支援

 子どもは成長過程で、友だちが使っている玩具を一方的に取る。取られそうになると、相手を押す・叩く・噛みつくなど、攻撃行動をすることがあります。物の取り合いは日常よく起こる出来事ですが、そこから子どもがどのように上手な表現や社会性を身につけるかは大人の関わり方に左右されます。具体例を挙げて攻撃行動の意味と対処を考えます。

 わが子の攻撃行動を目の当たりにすると、親御さんは「相手に怪我をさせないか」「どんどんエスカレートしていかないか」「わが子が仲間はずれにされないか」と心を痛めます。相手の子や親を気遣うあまり、わが子を強く叱りつけます。『目には目を、歯には歯を』式に身体で痛みを分からせようとする人もいます。しかし、一方的な叱責・体罰は怒りを内向させ自傷を引き起こします。親御さんが願う思いやりの心や社会性は育ちません。子どもは「欲しかった!」「悔しい!」という当たり前の気持ちを受け止めてもらえないので、一番身近な親に不信感を抱くようになります。悪循環すると、人への迷惑やトラブルを避けようとして、外出先は人のいない場所だけ、移動は人と接触せずにすむ自転車か車でのみ…と親子共に八方塞りのしんどい状況に陥る可能性があります。

・・・ここで見られる攻撃行動には、親御さんが心配されるような、人を傷つけようする意図はありません。子どもにすれば、自分の欲求や困り感をうまく伝えられず、自分で何とかしようとする「苦しまぎれの行動」です。園では、子どもが気持ちを上手に伝えられる支援として、親御さんと協力しながら、子ども同士の関係を橋渡ししています。

 たとえば、相手の使っている玩具を取ろうとするときは、その行動を制して「黙って取ったらアカンよ。○○ちゃんに聞こうね」とたしなめます。逆に相手が一方的に取ろうとするときは、「黙って取らないでね。○○ちゃんに聞いてね」と相手の子に伝えます。本人には「△△さんが『貸して』って言っているけど、どうする?」と意向を聞きます。聞かれても、返事をしない、玩具を抱えて離さない場合は、「イヤなの?」と意思を確認します。相手の子には「○○ちゃんは、今はイヤなんだって」と伝えます。手が出てしまった場合は、頭ごなしに叱るのではなく、しっかりたしなめます。そして泣いている相手の子を慰めます。(そのように見えなくても)本人は必ず相手の様子を気にかけています。

 攻撃行動が見られる場合は、物の取り合いの時だけでなく、普段の生活においても大人の配慮が必要です。うまく表現されない欲求や困り感に気を配り、気持ちを確認する・慰める・援助するなどの細やかな対応は、安心感・満足感を育みます。子どもは、肯定的に理解してくれる大人を求め、信頼し「心の支え」にします。そのような関係が築かれてくると、怒りや悔しさを以前のように攻撃という形で直接相手にぶつけるのでなく、大人に訴えるようになります。気持ちをしっかり受け止めてもらう心地よさを実感するからです。そうした大人との信頼関係が、「貸して!」「イヤ!」と主張する自信を育みます。さらに心にゆとりができると、「貸してあげようかな?」と相手を気遣う気持ちも育ってきます。

 本人の立場に立った理解と支援こそ、攻撃行動を抑制し、親御さんが心から願うコミュニケーション力・社会性を育てます。多くの支援実践がその事実を裏づけています。

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