● | 視点(9)
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食事は人間が生きていく上で欠かせない基本的生活習慣の一つです。お子さんが食事を楽しみ心身ともに健康に育ってほしい、それは親御さんの切なる願いだと思います。 ところが、成長の過程には、小食、偏食、むらがある等、気がかりなことが出てくることがあります。対応に困って無理に食べさせようとすると、拒否したり、食べた物を吐いたりします。こんなときは、どう考えればよいでしょうか。 今回は、この食事とコミュニケーションの関係について取り上げます。 「食べる」という行動は、食べ物を見る、判断する、においをかぐ、口に入れる、噛む、味わう、飲み込む、胃腸で消化吸収する、身体の栄養にする、(排泄する)など、一連の行動から成り立っています。では食事とコミュニケーションはどう関係しているのでしょうか。一見両者は無関係のようで、実はとても深い関係があるのです。 「○○が心の栄養になる」という言葉があるように、食事の仕方は、心理学的に見ると、子どもが周りの人の言葉や働きかけをどのように受け止めているかを映し出します。「咀嚼する」(意味を考える)、「味わう」(感じとる)、「鵜呑みにする」(そのまま信じてしまう)、「消化する」(しっかり理解する)、「飲み込めない」(納得できない)「吐きだす」(気持ちをしゃべる)など様々な表現の中には大切な情報がいっぱい隠されています。 「大人が提供した食べ物に興味を示し、おいしそうに食べる」という行動には、周りの人への言葉や働きかけを信頼し受け入れる素地(人間関係)ができていることを表しています。実際に、日常のかかわりを通して、お子さんがお母さんや職員など身近な大人に愛着(甘えたい気持ち)や要求を率直に表し、やりとりを喜ぶようになると、それと共に、食欲が出る、周りの人が食べている物に興味を示す、落ち着いて食べる、食べるものが広がるなど、食事面にも必ず前向きの変化が現れてきます。 反面、「偏食矯正」を目標に強引に食べさせる、食べ物を一方的に制限する、隠すなど、本人が納得しがたい対応をすると、結果として、大人の言うことを聞かない、聞き流す、過度に緊張する、拒否的になるなど、反発心や不信感が生まれ、人への信頼感や自尊感情(自分を大切にする気持ち)が損なわれてしまいます。ですから、食事面の改善だけでなく、生活全体を視野に入れて、意思の尊重、興味に合わせた働きかけ、安心感や信頼が得られるかかわりにも目を向けましょう。 行き詰まったら、「もし自分だったら・・・」と子どもの立場に立って考えてみましょう。 |