「言えなかった気持ち」
会報「第50号 共に生きる」より(令和元年9月発行)
 Yちゃん(4歳)は周囲の様子をよく見ており、理解していることも多いが、自己主張が弱く、言いたいこと言えずに諦めることが多い。最近、クラスでは友だち同士で玩具の取り合いによる喧嘩がほぼ毎日あり、職員は喧嘩の仲立ちに入ることが多くなっていた。

 その日も友だち同士で喧嘩が起きたが、Yちゃんはクラスの職員におんぶされ、ボーッと宙を見つめていた。私は他児の対応に追われ、Yちゃんに声かけができなかった。クラスが少し落ち着いた頃、Yちゃんがおしりふき用の濡れティッシュを持って私のところに来た。私はYちゃんとトイレに行き、いつも通りに後始末をして、パンツを履かせようとした。しかし、Yちゃんはパンツを履くのを頑として拒否し、「まだ拭いてほしい」と新しいおしりふきを取り出して、私に渡してくるのを何回も繰り返した。私は、「綺麗になったから、パンツを履いてお部屋に戻ろう」と声をかけたが、とうとうYちゃんは泣き出してしまった。初めのうちは「まだ気持ち悪いのかな」と思っていたが、訴え方からそれだけではない感じがして、Yちゃんにクラスの様子も含めて話をした。すると少し泣き止んで、ジッと私の目を見た。「お友だちが喧嘩をしてうるさかったよね」と声をかけると、「ウルサイー」とはっきり言葉で訴えた。そこでようやくYちゃんが我慢していたこと、本当にしんどかったんだということがわかった。「先生が気づかなくてだめやったよね」と謝り「Yちゃんのこと大好きだよ」と伝えた時だった。Yちゃんが再びワーッと泣きだし、手を伸ばして私に抱っこを求め、「センセー」「ダイスキ、ダイスキ」と言ったのである。私は、Yちゃんにここまで我慢させてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになった。心の底から謝り、ギュッと抱きしめた。

 その後、Yちゃんは少しずつ落ち着いて、自分からパンツを履き、今度は私におんぶを求めてきたので、おんぶでクラスに戻ろうとしたのだが、ドアに手を伸ばして入ることを拒否した。まだ気持ちがすっきりしていないのかなと思い、しばらく廊下で付き合った後で「何かあっても必ずYちゃんのところに行くからね」と私の気持ちを伝えた。するとYちゃんは自らクラスのドアを指さし、部屋に入ると言う。Yちゃんが私のことをやっと信じてくれたのだとうれしかった。そして、気づいてあげられなかったことをもう1回謝って、Yちゃんと一緒にクラスに戻った。

 まだまだ言えないところの多いYちゃん。Yちゃんはいろいろな思いをいっぱい胸に抱えている。こちらがそんなYちゃんの気持ちを本当にわかりたいと思って細やかに声かけし、接することで少しでもYちゃんが言いやすくなったり伝えたいと思ったりしてくれる存在になりたいと心から思った。
※写真はイメージです。

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