「おさるの鈴」
会報「第52号 共に生きる」より(令和2年10月発行)
 Bさん(30代・女性)は、言葉による意思疎通は少ないものの、伝えたいことがあると、エレベーターに乗り、座り込んで行動で示す。本人のつもりと違う時には「あれ!?」と声を出し、職員を呼ぶ際には視線を送りながら、「あっ!」や「あい〜」等発して、Bさんなりの方法で思いを伝えてくれる。

この日、Bさんと買い物に行った。必要なものを買い、時間があったので「Bさんの好きなものがないか探しに行こう」と雑貨店へ行くことにした。そこでBさんの好きそうな玩具を提案したが、職員の手に玩具を渡し、手を振って「いらない」の合図。「鈴なんてどう?リンリン鳴るよ」と手渡すと、握りしめた。「おさるとぶたがあるよ」と2つを差し出すと、おさるの鈴をさっと手に取った。「来てほしい時にBさんがリンリン鳴らしてくれたらすぐ駆けつけますね!」と話すと、Bさんは私の目を見てじっと話を聞いていた。私は園に戻ると「みんな見て〜!おさるの鈴買ってきたよ。リンリンと鳴ったらBさんの傍に来てほしい合図だからね〜」とフロアの利用者や職員に伝えた。

 その後、私が昼食の準備をしていると、端の方から「リンリン」と鈴の音が聞こえてきた。先に気づいた職員が「Cさ〜ん、Cさんの方を見てリンリン鳴らして呼んでるよ」と教えてくれた。すぐに駆け寄り「Bさん、気づけなくてごめんなさい。もしかして私を呼んでくれたんですか!?」と声をかけると、鈴を私の手に置いた。そして「あい〜」と言いながら私に、“呼んだよ”と言っているようだった。

 2、3週間経った頃、私がおさるの鈴を最近見かけないなと思い、Bさんに「そう言えば、あの鈴はどこに?おうちにありますか?また持ってきてほしいな〜」と声をかけた。すると翌日「Bさんおはようございます」と挨拶すると、手に何かを握りしめていた。「今日の玩具は何ですか?見せてください」と頼むと手を広げた。そこにはなんとおさるの鈴があった。「あ!おさるの鈴!」と私がはしゃいでいると、Bさんのお父さんが、「そう言えば、家に帰ってからゴソゴソとしてたわ。鈴を探してたんやな〜」と教えてくださった。「Bさん、本当に持ってきてくれるなんてうれしいです!」と私の思いを伝えると、Bさんはにっこりしながら目を見つめ、“だって、昨日約束したじゃない”と伝えてくれているようであった。

 以前はBさんの気持ちを汲み取ることが難しかった。それが少しずつ思いを伝えてくれたり、Bさんと気持ちのやりとりができることをうれしく思う。これからもBさんの思いを少しずつ理解し寄り添っていきたい。
※写真はイメージです。

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