「一人でがんばらなくていいんだよ」 |
会報「第53号 共に生きる」より(令和3年7月発行) | |
今年の4月に入園したCくんは緊張や不安が強く、遊んでいるおもちゃを友だちに取られる、友だちが大きい声で泣くなどすると、困ってしまう。けれど、大人に伝えられず自分でなんとかしようと必死になるため、押したり叩いたり、強い関わりになることが多くみられた。Cくんの気持ちを推測しながら慰めても、こちらの言葉が入らず1人でがんばっている印象を受けた。どのような支援が良いかと迷いながら、家庭の状況を聞くことでCくんが大人を頼りにくい背景がわかった。 お父さんが単身赴任、祖父母に頼れない状態で、ほとんど1人で育児と家事をこなしていたお母さん。買い物も、目を離すと1人で走っていってしまうCくんを連れていかなければならない。やむを得ず、お母さんは抱っこひもで外出していたとのこと。そのため、本来は心地いいはずの「抱っこ」を、Cくんは「止められる」「拘束される」と感じていたのである。 こうした背景を知ってからは、大人がCくんにとって「困った時に頼れる存在」「慰めてくれ、甘えることで安心できる存在」となるよう、関わり方を考えた。Cくんが困っている時や友だちに思いをうまく伝えられない時には、「これが使いたかったんやね」「お友だちの声、びっくりしたね」と声をかけ、気持ちを受け止めることを最優先した。 単独通園が始まった当初は、お母さんとの別れを気にする素振りもなく、通園バスに乗り込んでいたCくん。数週間経つとバスで園に着いた後に「ママ…」と涙ぐむようになった。職員が近くに行って「寂しくなったんかな」と声をかけると抱っこに応じる。しばらくすると「元気になった」と慰められて気持ちを立て直せることが増えていった。同時期、帰宅後にお母さんのそばを離れなくなり、お母さんもCくんから「頼られている」「大切な存在になっている」と実感。帰りは直接迎えに来てくださるようになった。 こうして、少しずつ大人を頼り、大人に抱かれて落ち着けるようになったCくんだが、友だちには相変わらず強い関わりになりがちで、目を離せないことが続いた。そこで、お母さん、担任、園長とで話し合いを行ない、Cくんが困っている時だけではなく、日頃からのスキンシップを大切にすることにした。職員だけでなくお母さんも意識して関わってくださり、Cくんは必死な時でも大人に抱かれると力が抜けて、困っている内容を言葉で伝えることが増えてきた。 不安な子どもを前に、大人はつい一方的に声かけや提案をしがちである。けれど子どもにとっては、信頼できる大人がそばにいて、抱っこをしてくれるほうが安心できることがある。Cくんとの関わりは、そうしたことを実感させてくれるものとなった。 |