「Dちゃんの強い思い」
会報「第54号 共に生きる」より(令和4年7月発行)
 Dちゃんは発声と身振り手振り、行動で気持ちを伝えるが他児に比べると主張は弱く、職員からの誘いかけや声かけにもスッと応じることが多かった。私はもう少しDちゃんと深く関わりたいと思いながらも、思うように時間を作ることができず、少しもどかしい思いをしていた。

 夏になり、週に数回ほど水遊びをするようになってきた頃、その日はプレイルームでの活動を設定していた。Dちゃんの足取りは重く、階段の途中で座り込んだ。めずらしいなと思いながらも、「プレイルームに行こう」と誘いかけた。それでも頑なに動こうとしないDちゃんに「Dちゃんはどこに行きたいの?」と聞くと、階段の下を指差す。「下に降りるの?」と言うとすぐに立ち上がり、私の手を取り階段を下りる。そのまま部屋に入ると、一目散にロッカーへと向かい、プールバックを取り出して私の顔を見る。「水遊びがしたかった?」と聞くと満面の笑みで、うん!と頷く。私は一瞬“みんなプレイルームだし…”と迷ったが、Dちゃんがここまでハッキリと伝えてくれた気持ちを汲み取り、クラス職員に確認し「お待たせ!水遊びできるよ」と言った。うれしそうに服を脱いだDちゃんに、水遊びを楽しみにしていた気持ちがよくわかったことを伝え、一緒に水遊びを楽しんだ。

 その日の午後、Dちゃんは何回も私を呼びに来て、一緒に遊ぼうと誘いかけてくれた。めずらしいと思ったが、“午前中の水遊びがとても大きかったのではないか”と気付いた。“これからもしっかりとDちゃんの気持ちを聞くし、もっと知りたい”という思いを込めて、「好きなこと、また教えてね!」と声をかけるとDちゃんは顔を上げてじっと私の顔を見た後、ニコッと笑い返してくれた。

 このできごとをきっかけに、Dちゃんとの関わりについて振り返ると、気になりながらも十分に関わる時間を取れておらず、どちらかというとクラスの都合で誘いかけたり、動いてもらったりしたことも多く、申し訳ない気持ち、このままではいけないと思う気持ちが大きくなった。

 いつもそれほどイヤを言ったり、強く主張をすることが少ないDちゃんだが、本当は心の中に強い思いを持っている。この日は小さな行動の変化に気付いて寄り添ったことにより、自分の思いをしっかりと伝えてくれ、その気持ちが私に通じ、思いが叶ったことがとてもうれしかったのだと思う。誘いかけに拒否しないからOK、応じるからOKではないと痛感し、Dちゃん自身が本当にしたいこと、伝えたいことをていねいに汲み取り、些細なサインを見逃さないよう関わることを通してDちゃんの自己表現が増え、イキイキ、のびのびと過ごす姿を見られるよう、日々保育をしていきたいという思いを強くした。

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